ロバの少女~咎人の島
母
凪(なぎ)
ミキの母の名はナギと言った
名前はそれだけ
母は多くを語らず
ただ異様なほどにミキをかわいがった
なのに
ミキは外に出たことがなかった
外に出たいというと
母は決まってこういった
「外には怖い人攫いがたくさん居るの。だから母さんと一緒にいましょう。」
母はそう言って
自分が外に出るときはミキの部屋の二重戸に鍵をかけた
「父さんはいないの?」
一度だけ
ミキは母に聞いたことがある
母は悲しそうな顔をしたように見えた
「どうしても父さんに会いたくなったら、母さんを殺しなさい。」
そう言った母の目には感情が感じられなかった
幼かったミキには言葉の意味はあまり分からなかった
でも二度と聞かなかった
母はとても優しい人だった
ミキがここにくる数年前から家移りが増えた
母はいつもおびえて見え
年々やつれていった
目はくぼみ
頬はこけ
その形相は鬼にも見えた
母はおびえる目で私を見た
私の向こうを見ながら
「ごめんなさい…ごめんなさい」
と、何度も何度も言った
ある日
ミキは母を殺した
包丁は母に渡された
息の根がとぎれる間際
母は娘を抱きしめた
凪(なぎ)
ミキの母の名はナギと言った
名前はそれだけ
母は多くを語らず
ただ異様なほどにミキをかわいがった
なのに
ミキは外に出たことがなかった
外に出たいというと
母は決まってこういった
「外には怖い人攫いがたくさん居るの。だから母さんと一緒にいましょう。」
母はそう言って
自分が外に出るときはミキの部屋の二重戸に鍵をかけた
「父さんはいないの?」
一度だけ
ミキは母に聞いたことがある
母は悲しそうな顔をしたように見えた
「どうしても父さんに会いたくなったら、母さんを殺しなさい。」
そう言った母の目には感情が感じられなかった
幼かったミキには言葉の意味はあまり分からなかった
でも二度と聞かなかった
母はとても優しい人だった
ミキがここにくる数年前から家移りが増えた
母はいつもおびえて見え
年々やつれていった
目はくぼみ
頬はこけ
その形相は鬼にも見えた
母はおびえる目で私を見た
私の向こうを見ながら
「ごめんなさい…ごめんなさい」
と、何度も何度も言った
ある日
ミキは母を殺した
包丁は母に渡された
息の根がとぎれる間際
母は娘を抱きしめた