Happy birthday
4
架空の物語には結末がある。
しかし、現実の物語はハッピーエンドだろうがバッドエンドだろうが、俺たちが死ぬまで続いていく。
幸せな結末を迎えた、おとぎ話のカップルたちは、その後どうやって生きていくのだろうか?
†††††
それから。
俺はどういうわけか素行不良生徒代表から、優等生代表になっていた。
水泳部も、バンド活動もすっかりやる気を無くしていた。
美琴を亡くした高2の12月から、高3になるまでの間の記憶は今でも思い出せない。
あの時、俺はいったい何を考えていたのだろうか。
高3になった俺は、ある理由で大学進学を志す事となる。
ただ、何も考えずに受験勉強に集中していった。
そして、俺はW大学に現役入学する事になり、そこである女と出逢う事となるのだが、それはまた別の話だ。
あの日から、ちょうど10年経っていた。
俺は会社を有給休暇を取って、幾多の人々が眠る明青霊園へとやって来ていた。
ここに、美琴の墓もある。
美琴の誕生日でもあり、命日でもあるこの日に花束を手向けに来るのが、俺の年間恒例行事のひとつになっていた。
名前すらわからない、大量の花束を美琴の墓前に添えようとした時だった。
「南野さん……、今年も来てくれたんですね」
「おばさん……」
美琴の母親だった。
既に一社会人である俺が、おばさん呼ばわりするのも失礼な話かもしれないが、他にどう呼べばいいのか見当がつかなかった。
『岸田さん』なんて、他人行儀な呼び方をする事のほうが、俺には失礼な気がしていた。
「3年ぶりですね。すっかり立派になって。あれから仕事は順調かしら?」
「ええ、それなりにトラブルもあったりしますが、いい調子でやってますよ」
3年ぶりに会った美琴の母親は、以前よりも老け込んだような気がした。
俺も、他人から見ればかなり変わったのかもしれないが。