Happy birthday

「あれ、おばさん『今年も』って、去年もここに来たことご存知だったんですか?」

 去年も一昨年も、美琴の母親には会わなかったのに。

 
「ええ、毎年たくさんの花束を美琴に供えに来てくれますし。それに……掃除の方なのかしら?麦わら帽子をかぶった綺麗なお嬢さんが、南野さんが来てくれた事を報告してくれたんです」

「麦わら帽子のですか?」

 おいおい墓場には、場違いな格好すぎないか?

「ええ、今年はいらっしゃらないのかしら?とても不思議な方でしたわ……」

 そりゃ、墓場に麦わらスタイルなんて不思議ちゃん以外には考えられないよな。

 まあ、そんな事はどうでもいい。

「……もう、あれから10年になるんですね。南野さん、よかったら家にいらっしゃいませんか?いろいろお話したいこともありますので」

「いいですよ」

 断る理由はなかった。



 美琴の家に入るのは、葬式の日以来だろうか。

 あれから、何度かおばさんには会ったのだが、あの日の記憶をどうしても思い起こさせる家の中にまでは入る気はしなかった。

 だが、もう10年だ。

 思い出は思い出として、向き合わなければならない。

 久しぶりに入る、美琴の家はまるで昔と変わらなかった。

 ふたりでバカをやったあの頃のままだった。

 懐かしい空気の中で、俺とおばさんは話をした。 

 俺の事。

 美琴の事。

 穏やかに時間は過ぎ去っていった。
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