Happy birthday
「なあ最近、末広涼子ってあんま見ねえよな。俺らと同期にW大に入学したけどろくに大学来ないうちに辞めちまったやつ」
「話をそらさなくてもいいわよ。今日はあの子の命日なんでしょ。まったく、過去の女の墓参りのついでに来るのが、1年ぶりの再会なんてね~」
嫌みたらしく、夕果は言うのだった。
「別にもう、付き合ってるわけじゃないんだからいいだろうが」
「……とにかく、今日はなんかあったの?なに?そこに置いてあるのは?」
ろくに片付けてない書類まみれのテーブルの上に、無造作に置いておいた俺が持参した荷物を指差して、怪訝そうに夕果は言った。
「ああ。実は美琴の家に今日寄ったんだけど、そのときおばさん――母親な――にもらったんだ。なんか10年経っても、俺が美琴の墓参りに来るようだったら渡してくれって、おばさんに書き置きしてあったらしい」
「10年……。中身はなんなの?」
俺は、和菓子屋の紙袋に入っていたそれを取り出す。
「ピアノの置物?いや、オルゴールね?」
グランドピアノを模した、オルゴール。
美琴が得意だったピアノ。
そういや、合唱大会のピアノもあいつが弾いてたな。
「ふうん、ここの横から出てるゼンマイを巻いて音を出すのね~」
おいおい、煙草臭い手でベタベタ触るなよな。
「……あれ、ここ開くようになってるのね。あれ、中に……手紙?」
なんだって?
「ちょっと貸せっ!」
「あっ、なにすんのよ~」
確かに、そのピアノ型のオルゴールは上蓋が開くようになっていた。
そして、その中には四つ折りになった紙切れが入っていた。
「手紙……。美琴が俺に遺したのか?」
この手紙の中に、あの突然の美琴の自殺の真相が隠されているのだろうか。
俺は、オルゴールのゼンマイを巻き、手紙を開き、目を通す。