Happy birthday
†††††
オルゴールからの旋律は、もう聞こえなくなっていた。
「……バカやろう……忘れられるわけ……ないじゃないかよ……」
はは……人口呼吸かよ……あいつにとっては、あれもキスにカウントされてたんだな……。
「あんた……泣いてるの?」
「ちげえよ……目にゴミが入っただけだ……あれ?なんだ……これ?」
目を拭ってはっきりした視界に、オルゴールの中に残っていた何かが映った。
「……押し花?……これはチューリップか?」
食べ物の防腐用に使うジッパー付きのビニール袋に、紫色のチューリップの花びらの押し花が入っていた。
なんか妙に生活臭漂うところが美琴らしかった。
「ねえ、知ってる?」
ふと、夕果が口を開いた。
「チューリップには色によって花言葉が違って、紫色の花言葉は……」
そして、寂しげな顔をしながら言った。
「永遠の愛情」
……美琴、また嘘をついてるじゃないかよ。
「悪い夕果、今日はこれで」
俺は手早くオルゴールを紙袋に戻して、ケツの痛くなる安物パイプ椅子から立ち上がる。
「どうしたのよ」
「急用を思い出した」
そして、挨拶も早々に保健室を後に、学校の横に停めてあった車に乗り込む。
まったく、俺は大馬鹿野郎だ。
忘れていた事がある。
また10年前と同じ過ちを繰り返す所だったのだ。