Happy birthday
1
昔話をしよう。
といっても、じいさんが山に芝刈りに行ったり、ばあさんが川に洗濯に行くとかそういう類の話じゃない。
人生のうちで、最もくだらなくてバカバカしい時間。
そう、青い時代。
これはそんな時を過ごしていた俺の昔話だ。
†††
高校生の男子なんてものの大半は悪ぶったり、バカをやったりするわけで、御多分にもれず当時の俺も素行不良生徒代表として、先生方から熱い視線を送られる毎日を送っていた。
まあ俺が通ってた学校は、当時それなりに校則の厳しい学校として名高いところだったから、それほど無茶をしたわけじゃないけどな。
そんなわけで、屋上で雄大な空をバックに、昼寝をかましていた高2のある日の事だった。
「ぶべらあっ!」
鼻の穴に異物感を感じた。
「あっ、起きた!」
女の声とともに目を開けたら、俺の鼻の穴から赤いチューリップが咲いていた。
「ちょっと待て、俺の鼻の穴は花瓶かなんかの仲間なのかっ!」
俺は眼前にそびえ立つ、白い2本足に怒りを表した。
なかなかの美脚だった。
「随分と気持ちよさそうな寝顔で熟睡してたからさ。つい思わず花を活けたくなっちゃって」
「普通の人間はひとの鼻の穴に花なんて活けるかっ!」
俺は、可愛らしく花を咲かせていた赤いチューリップを自分の鼻からぶっこ抜いて、美脚に向かってブン投げた。
「わたし、華道の家本[いえもと]だから。なんだか妙にかわいい寝顔だったから、つい」
そりゃ物珍しい作風の家本さんがいるもんだな。
って、どうせ冗談だろうが。
「ちっ。……で、なんの用でわざわざあんたがこんなとこまで、起こしにきたんだ?」
俺は美脚の上空に光り輝く、魅惑のトライアングルゾーンを眺めながら言った。
「席替えしたからさ。その報告にね。キミの荷物とかは、さすがに勝手に動かせないしね」
俺はしぶしぶ立ち上がる。
「そりゃわざわざご苦労なこった。学級委員長様のお手を煩わせてすまないね」
伸びをして、欠伸[あくび]をして、潤んだ目を擦る。視界がはっきりとしてきた俺の目に映ったのは、2年B組学級委員長こと岸田美琴の笑顔だった。