愛してるさえ、下手だった
だから今こうして彼女を殺せずにいることすら、俺にとってはありえないことなんだ。
「ねぇねぇ旭。これからどこに行くの?」
「うっせぇ。とにかく寝るところがいるだろ」
「あ、そっか」
緊張感がまるでない。
知らぬが仏、というやつだろうか。
一カ月以内には死んでしまう身だというのに。
「ねぇねぇ旭。どこに泊るの?」
「…うるせぇ。黙れよお前」
低い声で一言言い放つと、彼女はつまらなそうに口を閉じた。
かと思えば、またまとわりついてくる。
緩み切った締りのない顔をしていた瞳が、スッと鋭く細められる。
「…じゃあさ。どうして、名前で呼んでくれないの?」
その豹変ぶりにほんの少しひるんだ間に、彼女はまた笑顔を浮かべた。
「あたしはちゃんと旭って呼んでるのにー」
笑っていたかと思えば急に真剣になる。
いまいち掴めない。
本当に彼女と俺は似ているのだろうか。