愛してるさえ、下手だった


けれどその直感の真偽はすぐに明らかになった。


小さなビジネスホテルの前で足を止め、中に入る。

「ここに泊るの?もうちょっと豪華な所に泊るのかと思ってた」

俺が何も言わないでいると彼女はいい加減にあきらめたのか、無言で俺の後をついてきた。


「ほら」

素早く手続きを済ませ、彼女に部屋のカギを手渡す。

「旭、は…?」

「俺は隣の部屋」

それを聞いた瞬間、彼女の顔から一気に血の気が失せた。
さっきまでの図々しさや能天気な笑顔はどこにもなかった。


俺のものと比べてずっと小さな肩が震える。
彼女は掠れて聞き取りにくい声で何とか呟いた。

「嫌だ…」


聴こえた言葉はそれだけだった。
それしか言わなかったのかもしれないし、他にも何か言ったのかもしれない。

けれどどちらにしろそれは、とても悲痛な響きをもって俺の耳に届いた。


< 11 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop