愛してるさえ、下手だった
「おい」
いきなり頭上から聞こえた声に、あたしは我に返る。
「風呂、上がったぞ」
「ああ、うん…」
旭の髪から水滴が滴る。
その水の粒が照明に照らされて目にまぶしい。
「なぁ」
旭があたしに呼びかける。
相変わらず名前では呼んでくれそうもない。
返事はせずに首を傾けてそれに答えると、彼は濡れた髪を掻きあげながら不意に訊ねた。
「あんたは、殺されても平気なわけ?」
「…少なくとも、今のうちはね」
さっきほど殺してもらうことを志願しているわけではなかったけれど、今殺されても何の悔いもない。
それは幸せなことなのか、それとも不幸なことなのか。
「じゃあ、もし殺されるのがあんたじゃなくて…」
そこで彼の言葉は止まった。