愛してるさえ、下手だった
しばらくの沈黙が下りて、旭は小さく頭を振った。
「…何でもねぇ」
それきり彼が言葉を発そうとしないから、あたしは立ちあがってお風呂の方へ歩いた。
一歩踏み出すたび、体が重い。
独りでなくなったことはうれしいけれど、あたしの側には彼がいない。
もう彼はあたしの側にはいてくれない。
両親にも彼にも大切なものがあるのに、あたしだけがまだそれを見つけられない。
きっと永遠に見つかることなんてないのだろう。
「…あれ?」
お風呂から出て、あたしは首を傾げる。
いつの間にか着替えが用意されていた。
裾は長くて床を引きずるし、袖も妙に長い。
男物の服のようだった。
「ねぇ旭、これ」
それを着てお風呂から出ると、旭が濡れた髪のままうつむいていた。
明るい色をした髪が彼の顔を隠すから、表情が窺えない。
ここで能天気に振舞うのは、いけないことだろうか。