愛してるさえ、下手だった


そう思いながら旭に話しかけることをためらっていると、急にこちらを向いた彼と目が合った。

ゆっくりと投げかけられた視線が、ふと絡み合う。


「…なんで」

力なくそう呟いた彼の真意が読みとれない。
そのまま黙っていると、彼は付け足すようにもう一度繰り返した。


「なんで、逃げねぇんだよ」

「え…?」

そんなこと、考えもしなかった。
あたしに今与えられたのはこの状況で、あたしはその状況に順応していくだけ。

反抗心も疑問も、持ち合わせてはいなかった。


それに…。

「逃げたって、行く所なんて無いよ」

あたしには何も残っていない。


だからあたしは新しく与えられたこの環境に、彼にすがろうと思って付いてきた。

独りになるのだけは、嫌だった。


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