愛してるさえ、下手だった
風呂から出た彼女が気づかわしげに俺を見つめてくる。
その視線に気づきながら、あえて目を合わせようとしなかった。
どうしてまた来た。
逃げないのか。
普通は逃げるだろ、怖いと思うだろ。
見るな、見るな、見るな。
それでもまとわりついてくる彼女の眼差しに、俺はようやく観念する。
「なんで、逃げねぇんだよ」
続いた沈黙は、それほど長くなかったように思う。
「逃げたって、行く所なんて無いよ」
苦々しい笑顔だった。
直視するのが難しいほど、痛々しかった。
心に背負っているであろう傷も、人生を諦めきったような顔つきも、ずべてが似ていた。
希望を捨て切れなかった、あの日までのバカな俺と。