愛してるさえ、下手だった
満希が眠る横で、俺も静かに目を閉じる。
彼女の寝息が聞こえ始めた頃、俺はある考えにたどり着いた。
眠っている間に殺してしまえばいい。
それは俺が幾度もやってきた方法で、今さら迷うことも無かった。
人を殺すのは慣れていた。
いつものようにやればいいだけだった。
この首に手をかければいい。
俺が少し力を入れれば、満希の息は簡単に止まる。
満希は自分が殺される瞬間を味わわなくてすむ。
俺は満希が殺される瞬間の顔を見なくてすむ。
すべてにおいて合理的で容易で、楽な方法だった。
けれど、いつから俺はこんなに非力になってしまったんだろう。
満希の首に被さる手。
後少し力を入れるだけなのに、まったく力が入らない。
ただ首を包みこんでいるだけだった。
いつもやっていたはずのことが、どうしてもできなかった。
それは俺の、殺し屋としてのプライドをズタズタにするには十分だった。
もう無理だと、掠れた声でつぶやいた。