愛してるさえ、下手だった


ゆさゆさと体が揺さぶられて、あたしは現実に連れ戻される。

「んー…?」

あからさまに不機嫌な目つきであたしを起こした人物を見上げると、脳の髄まで覚醒したような気がした。
勢いをつけて起き上がり、その人物と顔を突き合わせる。


「旭!」

眩いばかりの髪。
殺し屋でいるにはもったいないぐらい整った顔。

よかった、もう独りじゃなくなった。

「帰ってきたんだね、あさ…ひ」

あたしは目をしばたたかせる。
あたしの体に回された腕の温もりが、ぴったりとひっついた彼の体が、信じられなかったから。


彼は何も言わない。
だからあたしも何も言えない。

どうしてこんな状況になっているのかなんて、訊ける雰囲気じゃなかった。

「満希…」

旭の体からは、微かに生臭い血の匂いがした。

そうか、この人は…。


人を、殺したんだね。


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