愛してるさえ、下手だった


妙に感慨深い気持ちになって、あたしは旭の背中に手を回す。

何だろう。
彼氏とこうしている時にはなかった気持ちが生まれてきそうな。

「どーしたの…?」

おそるおそる訊ねると、彼はあたしの首筋に顔を押し付けた。
旭が触れた所ひとつひとつが、冷めない熱を持つ。

「ごめん…っ」

彼はまた泣きそうだった。

あたしはどうして謝られているんだろう。
よくわからなかったけれど、彼を慰める以外に方法はなかった。


「大丈夫だよ、旭」

呟きながら背筋が寒くなる。
彼氏にも、こうやって優しい言葉を投げかけた。
いつもこんな風に慰めた。


旭は、あの人みたいにあたしを捨てたりしないよね?


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