愛してるさえ、下手だった


でもあたしの不幸話は、人ひとりの心を動かすのには十分だったらしい。

「…やめた」


彼が両手を挙げてお手上げの姿勢をとる。

「へ?」

きょとんと彼を見返すと、彼は苦笑いで手を差し伸べてきた。

「もうちょっと抵抗してみようぜ。せめて、あんたが死んで困る人ができるまでは」


さっさと殺してくれたらよかったのに。
そんなこと言われたらあたし、もう殺してほしいなんて言わないかもしれないよ?

自分から仕事を放り投げるなんて、おかしな殺し屋さん。


「そーだね。それもいいかも」


こうしてあたしは彼の手をとった。

これから地獄へと繋がるかもわからない、その人の手を。



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