愛してるさえ、下手だった
一歩踏み出すたび、足が泥沼に沈んでいくように重い。
誰かを殺すのにこんな気持ちになったことは初めてだ。
俺にはまったく関係ない。
関係があるのは満希の方なのに、どうしてこれほどつらくなるんだろう。
彼の家の近くで待ち伏せていると、心の準備ができるより先にその男は現れた。
やはり写真で見た通り、からっぽな目をしていた。
俺に目もくれることなく通り過ぎる彼の背中を見つめながら、少しずつ歩み寄る。
音を立てないように、振り向かれないように、気配を殺して。
ゆっくりと、男にしては細い首に手を伸ばす。
彼は振りかえらなかった。
声も上げなかった。
行動を起こす間もなく、その息の根は止まった。
彼が恐怖する間も、俺が逡巡する間も無かった。
気づいた時には俺の指は彼の吐血で濡れていて、彼は地面に力なく崩れ落ちていた。
あまりにもあっけない一瞬だった。
――旭。
「あいつ」の声が、頭の中で震えるように響く。