愛してるさえ、下手だった


これでよかったのか、本当に。

息をなかなか吐くことができなくて、浅い呼吸を繰り返す。
目の前で倒れているのが満希の彼氏であったことを、今さらのように思い出す。

満希はこれを知ったらどう思うだろう。
泣くだろうか、怒るだろうか。


それとも、また貼りつけたようなぎこちない笑顔で笑うんだろうか。
この前俺を慰めた時のように、すべてを包み込む声で。




ホテルの部屋に戻ってくると、満希がぴくりとも動かずにベッドに横たわっていた。

まさか――。

さっき会った刹那の含み笑いや血にまみれた普段の生活から、最悪の想像が頭をよぎる。
けれどそれは杞憂で、彼女はただ眠っていただけだった。

その事実に安心してしまった俺は、なんて愚かなんだろう。


彼女が不機嫌そうに起き上がったかと思うと、一瞬で顔を綻ばせて笑いかけてくる。

「旭!」

まるで、長い間会っていなかった母親に縋りつく子供のように。



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