愛してるさえ、下手だった
俺がたった今殺人を犯してきたことも知らないような顔で笑うから。
すべてが、抑えきれなくて――。
「帰ってきたんだね、あさ…ひ」
気づけばその細い体に、腕を回していて。
このまま世界のすべてが呼吸を止めてしまえばいいと本気で思った。
それぐらい大切に思い始めていた。
自分と似た傷を抱え、自分とあまりにも似ている彼女を。
腕の中で戸惑いながら俺を抱きしめ返してくる彼女に、しかし打ち明けなければならない。
それがどんなに残酷で醜いものであろうとも、彼女には真実を知る権利があった。
「殺したんだ。お前の、彼氏を」
満希は何も言わなかった。
俺が言ったことをゆっくりと咀嚼して飲み込むように、小さく頷いて頭を垂れる。
これで彼女は俺を嫌ってくれるだろうか。
俺から離れてくれるだろうか。
怖がればいい。
そうして逃げてしまえばいい。
そうすれば俺は、お前を殺さなくて済む。
刹那に嘘の報告ができる。
殺すことには失敗してしまったと。