愛してるさえ、下手だった
「あなたの名前はなんていうの?」
彼女が俺の隣を歩きながら訊ねる。
「教える必要なんてないだろ」
時が来れば俺は彼女を殺す。
いつか終わりのくる出会いなら、名前で呼び合う必要も無い。
けれど彼女は違った。
俺を憎んでいるのか、それとも何も考えていないのか読めない笑顔で、
「自分を殺す人の名前ぐらい、覚えておきたい」
俺が考えもしなかったことを口にした。
ほとんど呼ばれることのない名前を名乗るのは何だか緊張した。
「旭(アサヒ)」
それを聞いた瞬間、彼女は顔をほころばせた。
「すごーい!あたしね、あなたの髪の毛の色、朝日みたいな色だなって思ったんだ」