愛してるさえ、下手だった


「あなたの名前はなんていうの?」

彼女が俺の隣を歩きながら訊ねる。


「教える必要なんてないだろ」

時が来れば俺は彼女を殺す。
いつか終わりのくる出会いなら、名前で呼び合う必要も無い。

けれど彼女は違った。


俺を憎んでいるのか、それとも何も考えていないのか読めない笑顔で、

「自分を殺す人の名前ぐらい、覚えておきたい」


俺が考えもしなかったことを口にした。
ほとんど呼ばれることのない名前を名乗るのは何だか緊張した。


「旭(アサヒ)」

それを聞いた瞬間、彼女は顔をほころばせた。

「すごーい!あたしね、あなたの髪の毛の色、朝日みたいな色だなって思ったんだ」


< 7 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop