愛してるさえ、下手だった


刹那と呼ばれた人が、あたしと旭を見下ろす。
どこまでも威圧感に満ちた眼差しに、つぶされてしまいそうだった。

旭がいなければ、きっとあたしはつぶれていた。

「もう嫌なんだ。俺はもう、何も失いたくない!」

とめどなく流れる涙があたしの頬に落ちる。
なんて温かいんだろう。

刹那がフッと口元を歪める。


「殺された恋人を捨てて殺し屋になったお前が、今さら何を言う」

旭の肩が小刻みに震える。

あたしは旭の過去を何も知らないし、話したくないのなら訊こうとも思わなかった。

でも、そうか。
そんなに哀しい過去を、彼は背負っていたんだ。

そしてきっと旭の恋人であった人を殺したのはこの、刹那という人なんだろう。


「お前は彼女の死を悼むより、彼女と共に死ぬより、自分自身の保身に走った。お前は卑怯な男だ。
違うか?」

「俺は…」

どれだけ自分を責めてきたのだろう。

恋人に捨てられたあたしと恋人を捨てた彼。
まったく対極にあるように思えるその傷は、とてもよく似ていた。

傷の深さは同じだった。


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