愛してるさえ、下手だった
「何が違う。言ってみろ」
尋問でもするような口調で、彼が先を促す。
「旭は人間らしさを取り戻しただけだよ」
出逢ったばかりの頃、旭はとてもかわいそうな人だった。
誰を殺しても構わない、何とも思わない。
人間の心が欠落していた彼はまるで人形のようで、見ていられなかった。
だけどそれでも、旭はあたしを殺さないでいてくれた。
あたしが死んで哀しむ人ができるまで待とうと言ってくれた。
あの時旭があたしを殺さないでいてくれてよかったと、あたしは心から思っているよ。
「あなたはまだ、人間の心は取り戻せていないんだね」
「黙れ」
冷たい視線にも、もう怯まない。
「あなたも、かわいそう」
カラン、と音を立ててナイフが落ちる。
彼は――刹那は、声を上げて笑っていた。
聞いたことがないほど哀しい笑い声だった。