恋の教習所
指導員審査でこんなミスもったいなさ過ぎる。

そもそもこんなミス信じられない。


「・・・一ノ瀬さん。教習生の頃これ通れなかったの?」

山本教官に聞かれる。

「はい・・・。通れなくて無線教習でも脱輪しました。」

そう、ミッション車で免許を取る人には無線教習がある。
隣に教官は乗っていなくて、一人で運転するのだ。
教官は司令塔から見ていて、アドバイスをくれる。

教習の復習の為にするんだけれど。

私は復習どころかその無線教習でS字から落ちた。
それも自力で修正できずに、ちょうどやってくれていた湯浅教官が司令塔から下りてきて補助をする始末。

そんな私が検定はS字を落とさずに通れた。

なにげに思い出があるこのS字。


「そう。今は通れるようになってよかった。当然だけど。でも、通れるからって気を抜いていたら今のように擦ることもあるよ。審査の日はもちろん普段から気は抜かないように。」

全くその通りだ。

「はい。すみませんでした。」

素直に謝る。


「ところで当然一ノ瀬さんはえん石に擦ったのわからなかったでしょ?」

・・・はい。
全く言われるまで気づきませんでした。

「はい。気づきませんでした。」


「笠井君は?今の後輪が擦ったのに気がついていた?」

なんと山本教官は後部座席に乗っている笠井君に同じ質問をした。

笠井君が座っているのは山本教官の後ろ。
つまりは助手席側。

運転手の運転が見えるようにしているのだ。

そんな笠井君。

「寄りすぎたかなとは思ったんですけど、ギリギリ大丈夫だと思っていました。」

あ、寄りすぎだとは気づいていたみたい。


そこが私とは違うところ。


「そうか。気づいていなかったか。これも良い例だよ。思いっきり乗り上がったり落としたりされると分かる。けど、微かにされると気がつかないじゃあ指導にならないからね。しっかり覚えておいて。」

そうだ、教習生の運転の横に乗る私たち。
どんな動きをしているのか、したのか気がつかないといけない。

アドバイスや修正が出来ないから。

まずは私たちからしっかりと―――――――――――――
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