夜色オオカミ
「………消え…て…………。」
震える声でそれだけが口をついた。
十夜はそれを聞き終わると、難しい顔をして何か考えこんでいるようだった。
そして……
「……《バニシング·ツイン》か……。」
確信を持ったように前を向いて…そう、つぶやくように言った。
「さすがは若様……。姫君の出生に隠された秘密……それはまさに《バニシング·ツイン》なのです。」
橙伽さんは十夜の言葉に満足気に頷いた。
「十夜……それ、なぁに……?」
あたしは聞き慣れない言葉にますます戸惑い……十夜の服の袖を引きながら、恐る恐るそう聞いた。
「あぁ……。《バニシング·ツイン》だ。
初期の段階で元々双子として生まれるはずだった胚(胎児)が…何らかの原因で母体に吸収されて単体として残る。
まるで消滅(バニシング)したかのように見えることからそう言う。」
十夜はスラスラとそれを説明してくれた。
「医者は確信を持てないまま、次の検診で消えていた影を見間違いとしてしまったんだろうな……。
実際、《バニシング·ツイン》で母体に影響が出ることはねぇらしいし……
そのまま知らされずに来ちまったのか……。」
「………。」
十夜の声はどこかやるせなさを含んでいるように、…聞こえた。