夜色オオカミ
「今宵は《花嫁の月》……ですね……。」
「……橙伽………。」
後ろからかけられた静かな声に…月を見上げたままでその名を呼んだ。
真神では、半月を《花嫁の月》と呼ぶ。
魂の半分を持つ運命の花嫁に…半分に欠けた月をなぞらえてそう呼んだ。
「…よりによって、今夜の月とは皮肉なもんだな……。」
「…………。」
月を見上げて、嘲笑うようにそう言った。
「若様、《花嫁の月》とは……欠けた月はいずれ必ずや満ちるように、
本当に欠けている月などないからこそつけられた呼び名なのですよ……?」
「…………。」
真神の祖先は……必ず《運命の花嫁》と廻り逢うという想いを込めて月に願いをかけてそう呼んだ。
――――ならば紫月は……
どんな想いで《花嫁の月》を見上げたんだろうか……?
運命の花嫁を失ったあいつは……
「……祈咲に、逢いてぇなぁ……。」
痛いほど苦しい
この気持ちなんだろうか ―――……