夜色オオカミ
――――ズル……。地をする嫌な音を響かせながら、紫狼が食わえた狼を引きずって、ゆっくりとこちらに近づく。
あたしは引きずったあとについた生々しい血の跡を見て、身がすくみ…声も出ない。
「てめぇ……真神の敷地で堂々と……!!」
ギリ…ッ!と、十夜は必死に自分を制御しようとするかのように歯を食いしばりながら呻くように言った。
――――ドサ…ッ!
紫月さんは面倒そうな仕草で食わえた狼をその場に落とした。
あたしは固まってしまいそうな足を必死に動かして倒れた狼の元に駆け寄った。
「大丈夫……!?」
狼はグゥ…と弱々しく鳴いて、ぐったりと動かないままだ。
「私はこのままこの者を病院に運んでまいります…!
若様、油断なさらぬよう。」
橙伽さんはそう言って傷ついた狼を連れ車に乗り込んだ。
あたしはそれを呆然と見送ると、紫月さんに視線を移した。
紫月さんの顔はべったりと濡れている……。
深い紫色の狼の姿のままで、その血に染まった大きな口がニィ…と持ち上がり歪んだ笑顔を浮かべたように見えた。
まるで嘲笑うかのような表情で……。
その口の端から深紅に染まる牙が見える……。
「………!!」
それに、
――――あたしはあの恐ろしい夢を思い出していた。