夜色オオカミ
石のように固まって立ち尽くす。
発する言葉が見当たらない。
喉の奥までガチリと固まってしまったかのようだった。
紫月さんはそんなあたし達をしり目に、あっという間に走り去った。
その直後に橙伽さんが帰ってきて……紫月さんがこれを感じとったんだと気づいた。
十夜は、
ただ黙って紫月さんが走り去った方を見つめていた。
――――計り知れない複雑な感情が渦巻いているに違いない。
紫月さんが言ったことって
16年前の出来事ってことが
十夜自身にも関わってるってことでしょ…?
病死したお母さん、同じ時期に亡くなった叔母さん…
そして、真神…咲黒
その全てを、十夜のお父さんが知ってる……。
『…本当に愛されているのかな…?』
あたしですら
聞くのが
怖いよ………十夜。
「……っ……祈咲…」
「…………。」
艶やかな漆黒の髪が風に揺れている後ろ姿を見つめて
そっと近づいて、冷たくなった手を…握りしめた。