夜色オオカミ




石のように固まって立ち尽くす。



発する言葉が見当たらない。



喉の奥までガチリと固まってしまったかのようだった。



紫月さんはそんなあたし達をしり目に、あっという間に走り去った。



その直後に橙伽さんが帰ってきて……紫月さんがこれを感じとったんだと気づいた。



十夜は、



ただ黙って紫月さんが走り去った方を見つめていた。



――――計り知れない複雑な感情が渦巻いているに違いない。



紫月さんが言ったことって



16年前の出来事ってことが



十夜自身にも関わってるってことでしょ…?



病死したお母さん、同じ時期に亡くなった叔母さん…



そして、真神…咲黒



その全てを、十夜のお父さんが知ってる……。









『…本当に愛されているのかな…?』










あたしですら



聞くのが



怖いよ………十夜。









「……っ……祈咲…」



「…………。」










艶やかな漆黒の髪が風に揺れている後ろ姿を見つめて



そっと近づいて、冷たくなった手を…握りしめた。








< 282 / 472 >

この作品をシェア

pagetop