夜色オオカミ
花嫁の名は、高村白百合(タカムラ シラユリ)。
兄の一つ年下の15歳の少女。
その名にふさわしく、白き百合の花の如く清らかな美しさを持った少女だった。
美貌の兄と並ぶ姿はまるで一枚の素晴らしい絵画を見るようで…
白百合は清楚な外見そのままに、その心根も心優しく美しかった。
当主である父、真神夜一の後を継ぐ次期後継者の花嫁として、一族中から温かく歓迎された。
『灰音ちゃん、雪夜くん、今日は何をしましょうか?』
『『ユリ姫!』』
真神では代々、次期後継者の花嫁を《姫》と呼ぶ。
私と弟は白百合を《ユリ姫》と呼び、優しい彼女にとてもなついていた。
それは…十夜の祈咲姫と紅と蒼を見るようだったと思う。
『…ユリ。』
『咲黒!』
そして、兄は見ているこちらが恥ずかしくなるほどに白百合を溺愛した。
それは持って生まれた性格なのか…
はたまた、あらゆる能力が強く生まれついた黒き狼の性(さが)ゆえなのか……
強い強い…兄の愛情
はた目に見れば美しいその一途な想い
思えばそれが
――――悲劇を生み出す第一歩だったとも知らず。