夜色オオカミ
『…咲黒兄さま!お願い…ここを開けてちょうだい!』
『ヒナ…』
白百合の死を境に、兄はすっかり変わり果ててしまった。
食事も睡眠もろくに取らず書庫に入り浸る毎日。
毎日のように書庫に鍵をかけ立て籠る兄に雛菊は、扉を叩き呼びかけた。
『兄さま…!!
目を覚まして!』
『…止めよう、ヒナ…まだ、無理だよ…。』
私は扉を叩き続ける雛菊の赤くなった拳を止め、なだめた。
『あたしは…ユリが愛した…雪夜や灰音が大好きな咲黒兄さまを心から尊敬していたわ…!
だけど、兄さまの心はユリが死んだあの日、死んでしまったんだわ!!』
涙を流しながら、今の兄をユリが喜ぶはずがないと嘆き悲しんだ。
『十夜も…いるのよ……!!
兄さまは、兄さまの瞳は死んだユリしか見ていない…。
あれでは母親と同時に父親まで失ったのも同然じゃない!!』
『……っ。』
憤りの行き場を失った赤い拳が、弱々しく私の胸を打った。
『ヒナ…身体に障る。
戻ろう…?』
『ぅ……あぁぁー……!』
まだ何も解らない十夜を想い…まるで幼い息子を残して死んだ双子の姉に変わるかのように、雛菊は泣いた。