夜色オオカミ
十夜はあたしを置いて一人外へと出ていった。
着いて行きたかったけど、きっと足手まといになるだけだ。
あたしは茶室の丸い障子の隙間から外を覗く。
すぐに庭園の月明かりの中で行儀よく座る紫狼を見つけた。
ゆっくりと近づく十夜に紫月さんはニィと口の端を持ち上げた。
そこから見えるのは白い牙ではなく…真っ黒に染まりきった牙だった。
暗がりのせいで黒く見えるんだろうけど…あれはきっと濃い赤なんだろう…。
「お楽しみは終わったかな…?
最後の夜なのだから、今暫く待とうと思っていたが。」
嘲るように笑いながら、狼の紫色の瞳に楽しそうな明るい色はなかった。
「紫月…、もう止めろ。
おまえのしてることじゃあ…誰も幸せになんかならねぇ。
新たな憎しみが…生まれるだけだ。」
十夜は紫月さんに苦し気に訴えた。
悲しみの籠る声が夜の闇の中に響いていた…。