夜色オオカミ
激しく頭を振る姿は他の言葉を自分の中から追い払うかのような仕草だった。
そして…急にピタリ…と動きを止めた。
「…何を言おうと耳に入れるものか……
私は全てを捧げて心花を手にする……!!!
……花嫁を、寄越せ!!!」
「……!!!」
「グ オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!!」
雷が落ちたような…ビリビリと地を揺るがす程の咆哮を聞いた。
あたしに向かって猛然と駆けてくる血走った目をした獣。
紅ちゃんと蒼ちゃんが身構えてあたしの前に立つ。
「「……!姫君…」」
庇ってくれる二人の間に割って入り両手を広げて抱き締めた。
そして前を見つめながら…怖いという感情よりも…
ただ…胸が、…痛かった。
痛い、痛い、痛い
何て胸に痛い…叫び声だろうか。
――――来る……!
そう思った瞬間だった――
――――ザザッッ…!!
「止めろ……!!!」
「……!!」
目の前に滑り込んできた黒い影
駆け戻って来た十夜の叫び声が固まる思考の中に響いた。
次の瞬間―――
『……紫月……!!!』
「……!!?」
夢の中の声が……はっきりと、脳を震わせるかのごとく…
響き渡った。