夜色オオカミ
誰もが動きを止めた。
紅ちゃんと蒼ちゃんがあたしの両側で耳をピンと立てて固まってる。
そして
…紫月さんは、誰よりも…凍りついたように立ち尽くしていた。
時が止まったかのような空気の中で…
黒い影がゆっくりと動く。
十夜がピクリとも動けないでいる紫月さんの前に歩みよる…。
前足には酷い怪我をして…
その口には……
――――一輪の……赤い…百合の花。
「……血の…匂いだ…」
紅ちゃんが小さく呟いた。
甘い甘美な香りの中に漂う…微かな鉄臭さ…。
百合の花からぽたり…と落ちた一滴……。
――――あれは血に染まった白百合だと、気がついた。