夜色オオカミ
『若様……!』
『橙…伽…』
『……!…直ちに。』
駆けてきた橙伽さんが十夜の絞り出すようにして出した声と目配せに瞬時に反応して、動けないでいる十夜の代わりに横たわる紫月さんの元に急ぐ。
紫月さんの前には紅ちゃんと蒼ちゃんが、大きな瞳に涙をいっぱい溜めて身を寄せあうようにして立ち尽くしていた。
橙伽さんは紫月さんの前に片膝を付くと、胸に首筋に固く閉じられた瞳に…指をあてた。
そして固唾を飲んで見守るあたし達に振り返った。
誰もが……息を飲む。
『……。』
橙伽さんは目を伏せ、……首を振った。
十夜が息を飲み、眉を寄せ目を閉じた。
『ぅ…そ……』
あたしは思わずぎゅっと手を握りしめる。
祈っていた全員が
彼の命が既に尽きていることを
……知った。
『紫月ぃ……!』
『何で…っ、……死んじゃうんだよぉっっ!!!』
紅ちゃんと蒼ちゃんのあまりにも悲痛な声が、明けた眩しい空に…こだました……。