桜が散るように ー 新撰組 ー
夫婦と聞いた宿屋の主人が気を利かせたのだろう。
だが、気まずい。
恥ずかしいし、なにより脈が速くなっていることが後ろめたい。
「…私、布団無しで良いです。畳の上で寝ます」
「川瀬桜。お前……男前だな」
「やかましいです!」
口論になりかけた結果、
山崎が主人にかけ合って、もう一枚、布団を貰った。
そして、夜中、丑三つ時から任務開始となるので
それまで就寝ということになった。
「で、着替えですけど」
「ああ」
「見ないでくださいね!」
「前にも言ったが、得にもならないものは見ない主義だ」
「冷静な返しがムカつきます!」
そんなこんなで就寝した。
山崎の居る方からは、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。
一方
桜は緊張で寝られない。
不規則な心音が邪魔をする。
(土方さんと山崎さんに大見得を切った手前、失敗なんてできない…)
布団の中でギュッと丸まる。
(それに、もう逃げられない。覚悟……しなきゃ。この時代で生きる…覚悟を)
(だけど本当は―――怖い)
目を瞑り
しばしの間だけ、現実から目をそらすことにした。
―――
――――
――――――…
「……せ、…ろ」
ユサユサと、控えめに体を揺すられて、意識が浮上する。
「川瀬桜。任務の時間だ、起きろ」
ぼやけていた視界がクリアになると同時に、山崎の姿が目に入る。
山崎はすでに着替えを終えて、あの真っ黒な格好をしていた。