桜が散るように ー 新撰組 ー
川瀬家のことも
芳野のことも
何より、自分のことも知らない。
「知らないままは、嫌です。私は…私自身を知りたいです」
今、迷子になっている子供の心境だ。
自分が今立っている場所が分からない。
戻る場所が分からない。
「自分の今の状態を、自分の情報を、知らなきゃ、私はたぶん、『私』がわからなくなってしまう。それは、嫌です。知らないままは、嫌です」
「………あー」
土方は綺麗にまとめられていた髪を手でガシガシと乱す。
そして、ふーっと息を吐いて
「やってみろ。危険じゃない程度にな」
そう言って、呆れたように、でも受け入れるように微笑んだ。
「…、はい!」
「山崎、お前が調べたことも教えてやれ」
「…御意」
土方に一度、頭を下げた。
それから、布団をしいて寝ることになった。
それが、今朝の出来事。
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目を、瞑る。
手から消えない、人を斬る感触。
あの肉を斬る際の、弾力の生々しさ。
眠れない。
赤。それの臭いがする。
血の、臭いが。