桜が散るように ー 新撰組 ー
副長が視線を川瀬から俺に移したときには、表情が真剣になっていた。
「山崎、お前。桜に惚れたか」
それは質問ではなかった。
確信を持って、口にしたのだろう。
「……はい」
「告(イ)うのか?」
「……いえ、俺はまだ」
「まだ、…忘れてねぇのか?」
その質問に対しては、無言の肯定で返した。
【あの人】のことを、俺はまだ引きずっている。
いつか川瀬に言った。
『俺は感情を出さないようにしている』
あの人は、その理由だ。
「そうかよ。じゃあ桜は渡せねえ」
「……は」
「桜が泣いているのを見るのは、俺だけで良かったんだがな」
「副長、もしや貴方も…」
俺の言葉に、副長はニヤリと不敵に笑って頷いた。
「桜は俺のことを『お父さん』だと言っていたが、俺が桜に持っている愛情は『娘』へのモンじゃねぇよ」
――― 一人の女への愛情だ。
そうハッキリ言える副長が、少し羨ましい。