桜が散るように ー 新撰組 ー
悲しいのに
心がちぎれそうなくらい痛いのに
涙が、出てこない。
ーーー…さっきの
さっきの優しい手が、私の頭を撫でてくれてるときは
たしかに涙が出ていたのに………。
いまは、泣けない。
私は、バッグをギュッと握りしめ、うつむいた。
そのとき
ガラッと襖が開いて
「………。」
「………。誰、ですか。」
着物を着た、知らない男性が入ってきた。
「ああ、目、覚めたんですね。土方さんを呼んできますから、まだ横になっていてください。」
その男はにっこり笑ってそう言って、襖は開けっ放しで去っていった。
………。
質問には答えないのか。
しかし
襖の外の景色を見て、私は違和感があることに気づいた。
「電柱が、ない。」
そう。
電柱どころか、高いビルとかもない。
私が住んでいたのは東京で、空を遮るものがないのは有り得ないのに。