桜が散るように ー 新撰組 ー
最後の忍
呼び出された桜は、急いで戻り、部屋の襖を開けた。
「失礼します。あの、なんで呼ばれたんでしょうか?」
「とりあえず、座れ。聞きたいことがある」
桜は促されたとおり、土方の真正面に座った。
桜の背後にいた山崎は、襖の近くに座った。
「聞きたいことがある」
再びそう言われ、桜は頷いて、その言葉の先を促した。
「川瀬。お前は…忍か?」
「忍…なんですかね。自分でも分かりません」
「どういう意味だ?」
土方と山崎は首を傾げる。
「私の家は、昔、忍の一族だったそうですが、…今は普通に暮らしていて。忍だったとき、一族は滅んで…私達は生き残りの子孫だ、と。親は言ってました。」
詳しくは聞いていなかった。
まだ聞ける機会があると思っていたから。
でも、もう聞けない。話せない。
そう思うと滲んでくる涙を、目に力を入れて、ぐっと堪えた。
「なので、忍法は教わってます。剣術も、体術も、一通り教わってます」
タコのある手を握りしめる。
「なるほどな。どおりで足音も気配も無いはずだ。ずいぶん鍛えられたんだろう。それでお前、親は今何処にいる?」
土方に問われ、ぐっと言葉に詰まる。
でも、
(…言わなきゃ。ずっと隠すなんて、出来ないんだから)
握りしめていた手に、さらに力をこめる。
「両親は…、亡くなりました。此処に来る、前日に……、私の、目の前で」
「――! じゃあお前、あの時の服の返り血は」
「両親の…です」
土方と山崎は絶句した。
親の死の瞬間を、この幼い少女は見ていた。
服に返り血が付くほどの近い距離で。