桜が散るように ー 新撰組 ー


桜は黒い布の下の下唇を噛んで、よく分からない、胸を締めつける感情に耐える。

それが悲しみなのか、それとも別の感情なのか…。

桜自身、理解出来ていなかったが、
無性に泣きたかった。


――涙が出ないことは分かっていたが。


「……特訓だ。始めるぞ」

「…、はい」


痛む下唇を気にしないように、桜は心を入れ替えた。


――――
――――――


二つの影が
木々の間を縦横無尽に動く。



「木とか、こういう障害物が多いときはそれを利用して攻撃と防御をしろ!」

「はいっ!」


時折、休憩を挟むが、その間も戦いの秘訣を山崎は語る。


「いいか、障害物は利にもなり、また逆にもなる。障害物を敵にとっては不利なものとし、己にとっては利になるものとしろ」

「戦いのことになると饒舌ですねー。…普段は無口のくせに」

「何か言ったか」

「いいえ!」


そんなこんなで
特訓の最初にあった、妙な気づかいと緊張感は、
薄れていった。


「ああ!避けた!」

「顔面狙ってクナイを投げられて、避けない奴があるか!」

「一個くらい…」

「お前は俺を不死身だとでも勘違いしてるのか」


なんとなく
桜は山崎が楽しんでいると思った。


(感情がないわけじゃない。笑うときは笑っていた)


桜も、また
この特訓で交わされる会話を少なからず楽しんでいた。




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