いちごいちえ
その途端に、広がった景色に目を見開いた。
――……ここ…って……。
広い敷地内に、一本だけ伸びた幅の広い石畳のような道。
その周りを埋めるように、敷き詰められた青々とした芝生。
すぐ近くを水が流れる音が微かにするので、小川でも流れているのかもしれない。
よく見ると、一本だけ伸びた道は、奥の境内から延びているらしい。
山を背に佇む境内の脇には、参拝者用の柄杓などが並べられている。
ももちゃんに引かれるがままついて行くと、きちんと柄杓などが並べられている場所までやって来た。
近くで見る境内は、とても立派な物で、瑠衣斗の実家の近くにあった神社よりも遥かに大きな佇まいだ。
瑠衣斗が手桶に水を入れ、そのまま手にして歩く後をついて行く。
ようやくここがどこなのか、誰に私を紹介するのか、なんとなく気付いた気がする。
いくつかの墓石の間を通り、その間、私は瑠衣斗の背中を見つめるしかできなかった。
瑠衣斗はきっと、こうして地元へ帰って来る度に、ここに来ているに違いない。
私はそんな瑠衣斗の背中に、声を掛ける事ができなかった。
と言うよりも、言葉なんていらない気がしたから。
しばらくすると、瑠衣斗が一つのお墓の前で足を止める。
脇に手桶を奥と、一つ小さく息を吐き出すように、肩が上下する様子がよく分かった。
そしてそのまま、瑠衣斗が私を振り返り、口元だけで小さく笑う。
「ももを紹介したいヤツ。んで、ももに紹介したかったヤツ」
そう言うと、瑠衣斗は前に向き直った。
何だかそれが、まるで顔を見られなくないように。
そして、目の前のお墓には、"松風"と、瑠衣斗の名字が刻まれていた。
「俺の、弟」
ポツリと呟かれた瑠衣斗の言葉に、風が反応したように大きく吹き上げた。