いちごいちえ
「でもま…、今日はももと一緒にこれて良かった」
「…うん」
そう言って優しく笑う瑠衣斗に、私も笑顔が浮かんだ。
空の高い所から、鳶が鳴く。
風が優しく吹き抜けて、私達を撫でていくようだ。
死後の世界があるのなら、そこからこが見えたりするのだろうか。
もし見えているのなら、瑠衣斗の思いが久斗君に届けばいいなと切に思う。
「そろそろ行くか…帰ったら帰ったで、いろいろ…ありそうだなあ」
「賑やかそうでいいね」
「…他人事だよな、まじで」
最後に手を会わせてから、久斗君の墓前から離れる。
また、会いにこれるように。
そう願って。
手を優しく包み込んでくれる温もりが、私の頬を緩ませる。
穏やかな気候に、同調するかのように思いを馳せた。
車まで戻ると、瑠衣斗がエンジンをかける。
なんだかそのエンジン音が、ホントにこれから帰るんだと言う事を、妙に感じさせた。
様々な思いを乗せたように、ゆっくりと車が走り出す。
窓から見上げた夏の空は、とても近くて大きな雲が覆い被さるようだ。
隣を見れば、眩しい太陽が瑠衣斗の横顔を照らす。
私の視線に気付いた瑠衣斗が、チラリと私に視線を向けると、はにかむように笑い、そっと膝に乗せた私の手を握り込み、前に向き直る。
「どうした?」
優しい声が、手の温もりと共に胸に染み入る。
何のことないのに、そんな些細な事すら切なくなる。
「ううん。なんでもないよ」
隣に瑠衣斗が居てくれると言う事。その事実が、なんだか物凄く贅沢な気がした。