いちごいちえ
「朝は忙しいのに…わざわざ作ってくれたんだね」
ほぼ満席だった店内を思いだし、ありがたさに胸がほっこりとする。
本当に、瑠衣斗の周りの人達は、暖かい人ばかりだ。
「…お節介とも言う」
「るぅ。そんな事言ったらダメでしょう」
ポツリと言った瑠衣斗に対して、私が静かに制する。
そんな私に対して、肩をすくめた瑠衣斗が、悪戯っぽく笑う。
きっと瑠衣斗は、こうして何度かサンドイッチを渡されているのかもしれない。
帰る時に、瑠衣斗が遠慮しないように。
祐二さんと由良さんなりの、瑠衣斗を思っての気遣いなのだろう。
そんな思いも、きっと瑠衣斗は気付いているのだろう。
「とりあえず食うぞ。ほれ、食えよ」
そんな祐二さんお手製のサンドイッチを、おもむろに取り上げると、瑠衣斗がそのまま私の口に押し当てる。
思わず反射的に口を開けると、押し込むようにしてサンドイッチが口一杯に入ってくる。
「むーっ。んむっ」
「だはっ、ほっぺぱんぱん。ハムスターみてえ」
予想以上に詰め込まれ、上手く口を動かせずに目を白黒させてしまう。
そんな様子を、瑠衣斗は笑いながら眺めると、満足そうに私が口を付けた残りのサンドイッチを口の中に入れた。
思わずドキリとしたが、気にしないよう必死にサンドイッチを飲み込んだ。
サンドイッチは本当に美味しいのに、なんだか味わう余裕なんてなかった。
その理由は、瑠衣斗があまりにも無防備な笑顔を、私に向けるから。
そんな笑顔に、私は釘付けになってしまうのだ。