いちごいちえ
ちょこちょこと渋滞にハマりながらも、車は順調に市街地へと近づく。
久々な気もするが、見慣れた光景。
そして瑠衣斗は、口約通り渋滞で車が止まる度に、私にキスをさせようと頑張った。
そしてその度に、赤くなって逃げる私を、満足げに笑った。
夏場ともあって日は長いが、遙か彼方の空には、白い月が細く浮かび上がっている。
首都高に入ると、周りはすっかりと背の高いビル群に囲まれた。
青い山や田畑、のんびりと歩く人なんて見当たらず、早足でどこかへと向かう沢山の人々。そして、広い空も狭くて窮屈そうだ。
だいぶ傾いてきた太陽までもが、ビルの間に窮屈そうに身を置いている。
「帰ってきたなー。どうする?帰るか?」
「えっと…どうする…?」
まだ少し家まではかかるが、時間にすれば30分もかからないだろう。
思わずチラリと瑠衣斗を見上げるが、その表情からは感情は伺いしれない。
「いい頃合いだし、どっかで飯食って、そっから帰るか?」
「ん?うーん…そう、だね…」
思った事が言えない自分が、もどかしい。
胸が詰まったように、言いたい言葉が出てこないようだ。
本当は、もう少し一緒に居たい。
今までずっと一緒に居たから余計に、離れる事が切なくなっちゃって。
でも、長時間の運転で疲れているであろう瑠衣斗に、そんな事言える訳がないんだ。
「なに食いてえ?何でもいいなら適当に決めるけど」
「プリン…は食べたい」
「デザートの前にメインを言え」
瑠衣斗は、私のワガママさえも、叶えてやりたいと言った。
でも、やっぱり私は、素直にはなれないし、ワガママも言えないんだ。