いちごいちえ
私のそんな言葉にさえも、瑠衣斗が優しく笑う。
その横顔があまりにも綺麗すぎて、見とれてしまう。
「もうすぐ駅前だし…適当に入るか」
「うん。ゴメンね?優柔不断で」
「そんなの、今更だしな」
首都高を降りると、目にも騒がしい喧騒な光景に、改めて人の多さに驚く。
のんびりと過ごしてきた今までが、まるで夢の中に居たようで信じられないくらいに。
そうなんだ。
私が過ごしてきた日常は、現実はこうなんだ。
こんなにも都心は、窮屈で冷たい。
コンクリートや沢山の硝子の窓の光、夜のネオンの鈍いエンブレム。
排ガスの臭い。妖しい光を反射した不気味な色の空。雑音、沢山の足音に人の声。
土の香りも、川の流れる音も、草木の茂る音も、虫達の鳴き声も、大きな空も夕陽も星屑達も、ここにはないんだ。
人の欲望が造り上げた塊。
それらが背比べするように、空に向かって高くそびえ立つ。
ここは、そんな街なんだ。
「やっぱすげー人だなあ。お盆休みだし余計にか」
「みんな早足で、どこ行くんだろうね」
ポツリと零した自分の言葉に、思わずハッとする。
無意識に口をついて出た言葉が、まさに自分が思っていた事だったせいか、無意味に動揺してしまった。
「う〜ん。誰かが待ってんじゃないのか」
「…え?誰か?」
「そ。だから、早く会いたくて早足…とか」
瑠衣斗らしい答えに、呆気に取られてしまう。
それと同時に、見ている景色が変わったように見えた。