いちごいちえ




ももちゃんを車から降ろし、瑠衣斗がしっかりとリードを握る。


空いた方の手で私の手を繋ぎ、沢山の人並みを避けて歩く。


何度も来たことのある場所ではあるが、こうして瑠衣斗と2人で来るのは、とても久々だ。



最後に来たのは、確か私が初めてりなさんと会った時だ。



「コイツ、ちょっとは怖じ気づくかと思ったのに。全然平気じゃねえか」



「なんかやたら貫禄あるよね」




瑠衣斗ですら嫌がり苦手な人混みさえも、ももちゃんは悠々と気にする様子もなく前を歩く。


すれ違う人達が、好奇心いっぱいの目を向けているにもかかわらず、ももちゃんは堂々と道を進んでいる。



時折黄色い歓声が上がる中でも、当のももちゃんは少しの反応も見せなかった。



「龍雅が居たら、もも連れてこの辺散歩に何周もしそう」



「あ〜…間違いないね」




そうこう話している内に、すぐに目的の場所へと辿り着いた。


テナントのようにビルの一角に入り込むように、可愛らしい雰囲気のカフェのような建物から、賑やかな鳴き声が聞こえてくる。


犬の形をした飾り付けや、一見ペットショップにさえみえてしまうような外観ではあるが、レンガ造りのその佇まいは立派なカフェだ。



「うわぁ〜可愛い…るぅよく知ってるね」



「前に買い物に来たときに、たまたま見つけた」



瑠衣斗は犬好きだし、実家で犬を飼っていれば、こういったお店はつい目が行ってしまうのだろうか。



「なんか、すっげえデートしてるっぽい」



「え?」



「だから、こーゆうの。デートみたいだなって」



そう言ってはにかむ瑠衣斗に、私は間抜けな程真っ赤になったに違いない。
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