いちごいちえ
その声があまりにも優しいので、私は落ち込んでいた事も忘れて顔を上げていた。
びっくりするくらい優しい笑顔を浮かべた瑠衣斗が、顔を上げた私と目が合うと、そのままゆっくりと前に視線を向ける。
真っ赤な夕焼けに照らされた横顔は、とても穏やかに見えて私を不思議な気持ちにさせていく。
見とれてしまう程整った顔は、横顔でももちろん整っていて、少し流してある髪型のせいか輪郭が余計に分かる。
「そんな可愛い姿見たら、このままどっか2人きりになれる場所で独り占めしたくなった」
「え…?」
「誰にも見せたくねえなって。余裕なんてねーよ。他の奴がももを見るのが、嫌でたまんねえ」
瑠衣斗の言葉に、頭の中が真っ白になる。
言われた意味を一つ一つ考えようとしても、冷静に考えるなんてできない。
きっと、テレビや映画だったら、テロップにボンっと言う文字が並び、擬音効果まで付けられているだろう。
恥ずかしいやら嬉しいやらで、なんて言えばいいのかすら思い付かない。
きっと私は、この先瑠衣斗と一緒に居たら、心臓は一個ではもたないだろう。
「でも、見せ付けて自慢してえ気持ちもあるんだよなあ…」
もう私は完璧に、今見ている夕焼けよりも真っ赤な顔になっているに違いない。
だいぶ気温も下がり涼しい風が頬を撫でているはずなのに、体の奥から暑くてたまらなかった。
「な?余裕なんて全然ない」
照れたようにはにかむ姿に、私の心臓は破壊寸前だ。
こんなにもドキドキさせられて、口から本当に心臓が飛び出るってこんな時にも言えるのかと、全く別の事を考えてしまうほど慌ててしまう。
「あ〜もう。隼人にまで意地になるなんてなあ。俺ってガキだな」
フッと笑った瑠衣斗が、くしゃりと後ろ髪を握り込む。
それがまるで、私の心臓を鷲掴みしたような感覚にさせた。