いちごいちえ




鞄から鍵を取り出し、すんなりと玄関の鍵を開ける。


ゆっくりと重い扉を開けると、真っ暗な闇が視界を覆った。



しんと静まり返った中、明かりをつけるために玄関へと入り、すぐ近くのスイッチで明かりをつける。



家を出る時と何ら変わらない光景に、胸がズキンと痛む。



「ちゃんと風呂入って、温まって寝ろよ」



廊下へと荷物を下ろした瑠衣斗が、私に向き直って優しく微笑む。


小さく頷いた私を確認すると、大きな手のひらが私の頭を撫でた。


なんだか胸が苦しくてたまらない私は、それを誤魔化すようにして俯いた。



そのまま流れるようにして、そんな私の頬に手を添えると、ゆっくりと顔を上に向けさせられる。



ドキンとして目を見開くと、瑠衣斗の瞳と視線がぶつかる。



何か言いたげに揺れる瞳に、釘付けされるようにして目が離せない。



でもそれはほんの一瞬で、瞬き一つ分のほんの時間の間に、優しく唇が重ねられた。



「おやすみ、もも」



「…うん、おやすみ」



軽く触れ合うだけの、優しいキス。


くしゃりと私の頭を撫でると、大きな手が遠ざかっていく。


唇にまだ少し残る瑠衣斗の感覚が、よりいっそう私を切なくさせた。



「じゃあな。夜更かしするなよ」



「しないよ。るぅこそ早く寝るんだよ。気を付けてね」



「おう。じゃ、またな」



軽く手を上げた瑠衣斗に向かって、手を振り返す。


遠ざかった瑠衣斗が玄関の扉を出ると、ゆっくりと扉が閉まる。


姿が見えなくなるまで、目が離せなかった。


姿が見えなくなった後にも、私はそこから目が離せなかった。
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