いちごいちえ
思いを断ち切るように、気を取り直して廊下に上がる。
リビングの明かりを付けようとした手を、そのまま止めた。
なんで本当の事を言わなかったんだろう。
もっと一緒に居たいって。
離れたくないよ…って。
迷惑だと思われたくないから?瑠衣斗にワガママ言って、困らせたくないから……。
でも瑠衣斗は、それすら嬉しいと言った。
私のワガママさえも、安心すると。
好きって気持ちが、伝わるから……。
私が我慢する事で、瑠衣斗を悩ませているとしたら。
気付いてない訳ない。瑠衣斗は私から、自分から言葉にする事を、何も言わずに待っていてくれている。
そう思った途端、私は玄関に掛けだしていた。
間に合うか間に合わないかなんて、考えもしなかった。
ただ単純に、体が勝手に動いていたんだ。
「るぅ…っ」
勢い良く玄関を開け、目を見開く。
踏み出そうと踏み込んだ体勢のまま、私は足を止めた。
目の前には、玄関の壁にもたれ掛かるようにして立っていた瑠衣斗が、私を見つめている。
驚いて言葉もでない私に向かって、ゆっくりと近付いた瑠衣斗が、手を伸ばして私を優しく抱き締めた。
「…ど…して?」
「賭けてたんだ」
「賭け…?」
瑠衣斗の甘く爽やかな香りと、胸から伝わる瑠衣斗の鼓動と心地よい低い声。
「五分待ってももが出てきたら、俺のマンションに連れて帰るって」
そんな言葉と共に、強く抱き締められた。