いちごいちえ
悔しいけれど、瑠衣斗に太刀打ちなんてできる自信なんてない。
前に向き直って歩き出した瑠衣斗の背中が、まだ笑っているように感じる。
とぼとぼと、そのまま勢いで持ってきた大きな荷物を、何も言わずに運んでくれている瑠衣斗に続いて部屋へと入ると、疲れたのかももちゃんはソファーに飛び乗ると丸くなって目を瞑った。
「本当に…初めて来る場所でも、動揺すらしねえなあ…」
そんなももちゃんを眺めながら、瑠衣斗が感心したように呟く。
間違いなく動揺してるのは、ももはももでも人間のももだ。
先ほどまでの事を、何も気にしている様子もない瑠衣斗に、なんだか距離感を感じてしまう。
私はこんなにドキドキしっぱなして、動揺しまくってるのに。
…るぅは慣れてるのかな。こーゆう状況……。
そう考え出すと、頭の中が全てその事にすり替わる。
胸がモヤモヤして、苦しくて切なくて息が苦しくなる。
「風呂、入るだろう……って、どうしたんだよ…」
「…どうもしてない」
私に振り返った瑠衣斗が、驚いたように声音を変える。
自分で答えた自分の声に、全く覇気なんて感じず、反対にどうもしていない訳なんてないようにアピールしているみたいだ。
なんだろう私。
るぅの過去に嫉妬してる……?
そんな事言われても、瑠衣斗だって困ってしまうだけなのに。
でも今の私には、そんな思いを振り払うだけの気力は無かった。