いちごいちえ
「お前には嘘つきたくねえ…でも、かと言って嫌われたくねえし、傷付けたくもない」
それは確かに、私だって瑠衣斗の過去の恋愛話を聞くのは嫌だ。
嫌で嫌でたまらないし、ひょっとしたら傷付いちゃうかもしれない。
気になってはしまうけど。
でも、瑠衣斗が今一緒に居てくれるのは、私だ。
過去に捕らわれて、今の関係をギクシャクさせたい訳なんかじゃない。
私のどうしようもない嫉妬で、瑠衣斗を困らせたい訳でも、謝ってほしい訳でもないんだ。
だったら私は、今目の前の現実だけを大切にしなきゃいけないんだ。
過去があるからこそ、今の私が居る。そして、瑠衣斗も、誰にでも。
だったら、感謝しなくちゃいけない。
こんな素敵な人になって、私と出会ってくれた事に。
「ねえるぅ…私の過去とか…考えて嫉妬したりする?」
「めちゃくちゃしてるし、しまくった」
私の質問に即答した瑠衣斗に、思わず吹き出してしまう。
そんな私に向かって、お約束のように不機嫌に眉を寄せた瑠衣斗が、じっと私を睨む。
「…なに笑ってんだよ」
「だって、即答…そんな真剣に…」
「当たり前だろう」
素直すぎる瑠衣斗が可愛くて、私は両手で顔を覆って隠す。
笑っている顔を隠すために。
「隠すなよ。顔見せろ」
手首を掴まれ、私は抵抗もする事なく瑠衣斗の思い通りになる。
緩んだ頬は、隠す事なんてやっぱりできなかった。
「もものこれからの長い未来は、全部俺のモンだぞ」
「…うん」
「俺が長年嫉妬した分、倍返しで返してやる」
「そっ…それはいい」
過去まで自分のモノにしようとしたらダメ。私達は、前に進んでるのだから。未来を見なきゃダメなんだ。